妊娠を望む多くの人にとって、「卵子の質」は重要なキーワードです。なかなか妊娠に至らない背景には、加齢や体質の影響で卵子の質が低下している可能性もあります。そんな中、東洋医学の観点から注目すべきなのが「八味地黄丸(ハチミジオウガン)」という漢方薬です。
この記事では、八味地黄丸がどのような仕組みで卵子の質にアプローチするのか、科学的な根拠や実際の活用例を交えて解説していきます。
なお、卵子の質を上げる漢方の1つとして、以下の記事でも八味地黄丸を取り扱っています。

2023.10.05
卵子の質を上げる漢方薬とは?その効果や使い方、ほかの方法との違いも紹介
【薬剤師監修】卵子の質を気にする妊活中の方にとって、漢方薬によるアプローチは有効です。この記事では、「卵子の質」と「漢方薬」について、そもそも卵子の質とはなにか、そして漢方薬が効くのか否か解説しています。 また、卵子の質が悪くなる原因やチェック方法についても解説しているので、参考にしてくださいね。...
八味地黄丸とは?
八味地黄丸は、古くから使用されている漢方薬で、「腎」を補う代表的な処方として知られています。もともとは加齢に伴う身体機能の衰えに対して処方されてきましたが、近年では妊活や男性不妊といった目的でも用いられることが増えています。
この漢方薬は、以下の8つの生薬から構成されています。
- 地黄(ジオウ)
- 山茱萸(サンシュユ)
- 山薬(サンヤク)
- 沢瀉(タクシャ)
- 茯苓(ブクリョウ)
- 牡丹皮(ボタンピ)
- 桂皮(ケイヒ)
- 附子(ブシ)
これらの組み合わせにより、体の冷えやむくみ、頻尿、腰痛、疲労感など、加齢や体力低下に関連する症状の改善に用いられています。特に「腎虚(ジンキョ)」と呼ばれる漢方的な体質の改善を目的とし、腎機能の低下やホルモンバランスの乱れが関わる不調に対して効果が期待されます。
妊活においては、冷えや血流不全、ホルモンバランスの乱れといった体質的な課題が妊娠の妨げになることが多いため、八味地黄丸がその改善に寄与する可能性があると注目されています。
なお、八味地黄丸は医師の診察を受けた上で処方されることもあり、保険適用となるケースも存在します。詳しくは、医療機関や薬剤師に相談することをおすすめします。
八味地黄丸は卵子の質を上げる漢方薬?
近年は八味地黄丸が卵巣機能の維持・改善に効果を示す可能性があるという研究が増えており、自然妊娠や不妊治療の補助として活用されています。
ここでは、八味地黄丸が卵子に及ぼす影響について、3つの科学的観点から解説します。
卵胞発育を促進する作用
ある動物実験の報告では、加齢マウスに八味地黄丸(ハチミジオウガン)を与えたところ、卵巣内の卵胞(らんぽう)の発育が促され、卵巣の重量も増加する傾向が見られたとされています。
こうした研究結果から、八味地黄丸には加齢による卵巣機能の変化を緩やかにし、卵胞の発育を後押しする作用がある可能性が考えられています。
抗酸化作用で卵巣環境を整える
さまざまな研究から、卵子の質低下には酸化ストレスが深く関与しているとされています。そして八味地黄丸に含まれる次のような生薬が、その影響を緩和します。
地黄(ジオウ) | 抗酸化作用、血流改善 |
---|---|
山茱萸(サンシュユ) | 細胞保護作用、抗炎症効果 |
これらの成分により、卵子が育つ環境を酸化から守り、質の維持に貢献します。
ミトコンドリア機能の改善
卵子のエネルギー源であるミトコンドリアの機能低下も、卵子の老化要因のひとつです。八味地黄丸は次のような作用を通じてこれにアプローチします。
- 附子(ブシ)・桂皮(ケイヒ)が細胞内代謝を活性化
- ミトコンドリアのATP産生をサポート
- 卵子のエネルギー状態を改善し、受精能力や分裂能力を高める
このように、八味地黄丸は「卵子の質を高める」ための複合的な作用を持つ可能性があり、妊活中の女性にとって心強い漢方処方といえます。
八味地黄丸が女性の妊活にもたらす、そのほかの効果
八味地黄丸は、卵子の質をサポートするだけでなく、妊娠しやすい体づくり全般においてもさまざまな作用が期待されています。
この章では、卵子の質を高めること以外の面で、妊活に役立つ八味地黄丸の効果について紹介します。
冷え性やむくみを緩和し、血流改善をサポート
妊活中の体づくりで多くの女性が悩む「冷え性」や「むくみ」です。これらの症状は血流の滞りや代謝低下と関係しており、子宮や卵巣の環境にも影響を及ぼすと考えられています。
八味地黄丸は、身体を温める作用を持つ生薬(ブシやケイヒなど)を含んでおり、末端の冷えやむくみの緩和に用いられることが多い漢方薬です。
結果として、骨盤内の血流も促進され、子宮や卵巣の環境改善にもつながる可能性があります。
尿トラブル・頻尿の改善で睡眠の質を向上
妊活中はホルモンバランスの乱れや加齢により、夜間頻尿や残尿感などの泌尿器系トラブルを抱える女性も少なくありません。睡眠が浅くなると、体の修復機能が十分に働かず、妊娠を目指すうえでのコンディション管理にも支障が出てきます。
八味地黄丸には、腎や膀胱を補うとされる生薬が含まれており、こうしたトラブルの改善に活用されるケースもあります。結果として、睡眠の質が上がることは、ホルモン分泌や全身のリズム調整にもつながります。
八味地黄丸は産婦人科の病気にも処方される?
八味地黄丸は、泌尿器や内科領域だけでなく、産婦人科でも処方されることがある代表的な漢方薬の一つです。特に女性ホルモンの変化によって引き起こされる諸症状や、加齢による体調不良に対して、保険診療の範囲内で処方されるケースが見られます。
こうした処方は、いわゆる「妊活」だけでなく、妊娠に備えた体調管理、あるいは更年期や産後ケアの一環としても行われており、現代医療と東洋医学が交差する場面の一つといえるでしょう。
更年期障害への対応
女性ホルモンの急激な減少により現れるほてり、冷え、めまい、動悸、不眠など、いわゆる更年期症状に対しては、ホルモン補充療法(HRT)に加えて、体質や症状に応じて八味地黄丸が選択されることがあります。
特に「腎虚(じんきょ)による下半身の冷え・だるさ・頻尿」が目立つ場合、腎を補う作用が期待される八味地黄丸が適応となることが多いです。
月経異常にも
冷えやストレスによって月経周期が乱れる方にも、八味地黄丸が使われることがあります。特に以下のようなケースで処方される傾向があります。
- 月経が遅れがち、または無月経
- 下腹部の重だるさ・冷えがある
このような症状は、女性ホルモンだけではなく自律神経や腎機能の低下とも関連しており、漢方の視点から補腎と気血の巡りを整えることで、症状の改善が図られます。
子宮筋腫には効く?
八味地黄丸は子宮筋腫そのものを縮小させる効果は報告されていません。しかし、筋腫によって引き起こされる月経過多や冷え、頻尿、倦怠感などの付随症状に対しては、体調の底上げという意味で処方されることがあります。
ただし、子宮筋腫が大きくなる、あるいは貧血や強い月経困難症を伴う場合は、婦人科での積極的な治療(薬物療法や手術など)が必要となるため、漢方薬だけに頼るのはリスクを伴うケースもあります。使用の判断は、医師と相談しながら慎重に行うことが大切です。
【男性不妊】八味地黄丸は女性以外の妊活でも処方される?
妊活というと女性側の治療や体調管理に意識が向きがちですが、不妊の原因の約半数は男性側にもあるといわれています。そのため、男性不妊においても体質改善の一環として漢方薬が使われることがあり、八味地黄丸もその一つです。
精子の質や量の改善を目的に処方される
漢方医学において「腎」は生殖機能と密接に関係しています。八味地黄丸は「腎虚(じんきょ)」と呼ばれるエネルギーの不足状態を補う処方であり、男性の以下のような状態に対して処方されることがあります。
- 精子の数が少ない(乏精子症)
- 精子の運動率が低い(精子無力症)
- 加齢や疲労による精力低下・勃起力の減退
西洋医学の直接的な治療に比べ、即効性は高くありませんが、全身状態を整えることで間接的に精子の質を高めることが期待されます。
男性更年期による性機能の衰えにも
加齢によって男性ホルモンの分泌が減少すると、性欲の低下・ED(勃起不全)・気分の落ち込みといった症状が現れることがあります。これらは「LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)」と呼ばれ、妊活にも影響を及ぼす可能性があります。
八味地黄丸はこうした男性更年期の症状にも処方されることがあり、加齢に伴う性機能や精神面の不調を穏やかに整える漢方として活用される場面があります。
【FAQ】八味地黄丸と卵子の質に関するよくある質問
ここでは、妊活中の八味地黄丸処方についてよく寄せられる質問に対して、わかりやすく解説します。
八味地黄丸は効果が出るまでどのくらいかかる?
漢方薬は即効性があるタイプの薬ではなく、じっくりと体質を整えることを目的としています。八味地黄丸を服用したからといって、すぐに卵子の質が改善するわけではありません。
一般的には、3〜6カ月ほどの継続服用で体質の変化を感じる方が多いとされています。生理周期や基礎体温の変化を記録しながら、自分の体調の小さな変化に気づくことが大切です。
八味地黄丸と当帰芍薬散が一緒に処方されることはある?
はい、併用されるケースもあります。
八味地黄丸は「腎」を補って生殖力や体力の底上げを図る漢方である一方、当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)は血流改善やホルモンバランスの調整に優れた処方です。
たとえば、以下のようなケースでは体質や症状に応じて両方が併用されることがあります。
症状 | 処方意図 |
---|---|
冷え性・むくみ・貧血傾向 | 当帰芍薬散で血流を改善 |
疲労感・加齢に伴う機能低下 | 八味地黄丸で腎を補う |
八味地黄丸は妊娠中に服用してもよい?
基本的には、妊娠が判明したら服用を中止するのが一般的です。
妊娠が成立した後の身体は非常にデリケートであり、安易な漢方の継続は避けたほうがよいとされています。とくに八味地黄丸は体を温める作用が強いため、子宮を刺激するリスクを考慮して、処方医とよく相談する必要があります。
妊娠がわかったら、服用中のすべての薬について、必ず医師に報告しましょう。
卵子の質を高めて妊娠、出産につながった事例は多数ある◎
妊活において「卵子の質をどう高めるか」は、多くの方が最も関心を寄せるテーマのひとつです。
そして実際に、漢方の力で妊娠・出産に至ったケースは多数あり、希望をつなぐ大きな支えとなっています。
たとえば、40代後半から漢方を取り入れて妊娠に至った方や、AMHの値が極めて低くても卵子の状態を整えて妊娠した方など、年齢や体質にかかわらず、前向きに体を整えた人ほど希望ある結果に近づいています。
漢方薬房こうのとりでは、卵子のもとになる原始卵胞が育つまでに必要な6カ月というサイクルに注目し、その間の体づくりを重視しています。FSHや基礎体温の安定といった数値の変化を伴う改善例も豊富にあり、年齢や検査数値にとらわれすぎず、体の内側から整えることを大切にしています。
実際に、過去の最高齢での出産事例は50歳(AMH0.02)で、2024年には47歳(AMH0.07)で出産された方もいらっしゃいます。
また、西洋医学では下げることが難しいとされているFSHについても、こうのとり漢方では改善例があります。53歳でFSHが100以上あった方が、こうのとり漢方を継続的に服用したことで、FSH6〜8の正常範囲で安定している例もあります。
更年期のような症状がある方の中には、八味地黄丸が非常によく効くケースもあります。ただし、使用頻度はご相談に来られる方100〜200人に1人程度と限られており、適応は慎重に判断しています。
「卵子の質を改善したい」「何から始めればいいかわからない」という方は、まずはお気軽にご相談ください。オンラインでのご相談も可能です。妊活をあきらめる前に、体の声に耳を傾けるところから一緒に始めましょう。
