漢方は、冷えやホルモンバランスの乱れなど妊娠を妨げる体の不調に対し、体質ごとに働きかけるのが特長です。
この記事では、妊活中に使われる代表的な処方や注意点、服用タイミング、実際の体験談までをわかりやすく紹介します。
妊活中に漢方を飲んでも大丈夫?
妊活中に漢方を取り入れることは多くの場合で問題ありませんが、体質や体調によっては注意が必要です。
実際に、不妊治療の現場では温経湯(ウンケイトウ)や当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)が処方され、血の巡りやホルモン環境の改善に役立てられています。
ただし、麻黄(マオウ)や桃仁(トウニン)、大黄(ダイオウ)のように子宮を刺激する生薬を含む処方は、排卵後や着床期の服用を控えるなど慎重な判断が必要です。
市販薬でも飲むタイミングや併用の可否は専門家に相談しましょう。詳細な見極め方や処方例は後の章で取り上げます。
妊娠をサポートする漢方の働き
妊娠の成立には、子宮内膜の状態やホルモンのリズム、自律神経の働きなどが密接に関係しています。
これらはそれぞれ独立したものではなく、体の中で連動しながら妊娠の準備を支えています。複数の生薬を組み合わせて使う漢方は、このような全身のバランスを整えることが得意な分野です。
本章では、漢方がどのように妊娠を後押しするのか、仕組みの面から3つの観点で解説します。
血の巡りを良くして子宮環境を整える
骨盤内の血液循環が滞ると、子宮内膜が十分に育ちにくくなり、着床率の低下につながることがあります。
漢方では、当帰(トウキ)や川芎(センキュウ)など、体を温めて巡らせる働きをもつ生薬を組み合わせた処方が用いられます。下半身の冷えや瘀血(おけつ)によって起こる血行不良を、体の内側から整えるのが目的です。血流が回復すれば、内膜はふかふかに保たれ、卵胞にも酸素や栄養が行き渡りやすくなります。
その結果、排卵後の高温期が安定しやすくなり、妊娠を支える土台づくりにつながります。
ホルモンバランスの調整を助ける
排卵障害や月経周期の乱れには、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの分泌リズムの揺らぎが関係しています。
漢方では、血を補いながら余分な水分の巡りも整える処方を使い、卵胞の発育を助けつつ、ホルモンの波をなめらかに保つよう働きかけます。
周期が安定すると排卵日が予測しやすくなり、人工授精や体外受精などの治療スケジュールも立てやすくなるでしょう。
自律神経を整える
妊活中は、結果を急ぐ気持ちや治療が長引くストレスから、交感神経が高まりやすくなります。
自律神経が乱れると、血管が収縮し、ホルモンの分泌リズムにも影響が出る可能性があるといわれています。
柴胡(サイコ)や芍薬(シャクヤク)を含む処方は、気の巡りを整えてイライラや不眠をやわらげる働きがあり、心身のバランスを整える目的で使われています。
リラックス状態が保たれると血流もスムーズになり、基礎体温のリズムも安定しやすくなるでしょう。
結果的に、妊娠しやすい体づくりにつながっていくと考えられています。
妊活中にむしろ漢方を飲んだほうがいいケース
冷えが抜けない、月経周期が安定しない、ストレスで眠れないといった体調の揺らぎは、妊娠を遠ざける大きな壁になることがあります。
漢方は、体質や症状に合わせて処方を選ぶことで、血流・ホルモン・自律神経を同時に整えられる点が強みです。
ここでは、妊活中に漢方を取り入れたほうがいいとされる代表的な3つのケースと、それぞれに用いられる処方例をご紹介します。
冷え性や低体温に悩んでいる
手足が冷えやすく、基礎体温の低温期が長引く人は、子宮や卵巣への血流が不足しやすくなり、内膜が十分に育たない傾向があります。
温経湯(ウンケイトウ)は、当帰(トウキ)や川芎(センキュウ)など体を芯から温める生薬を組み合わせ、骨盤内の血流を促す漢方です。
血行が整えば内膜はふかふかに保たれ、高温期も安定しやすくなります。
「下半身だけが冷える」「生理痛と冷えがセットでつらい」という方に選ばれることが多い処方です。
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生理不順や排卵の乱れがある
周期がばらついたり、生理が遅れがちになったりする場合は、ホルモンの分泌リズムが乱れている可能性があります。
当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)は、血を補い水分代謝を整える処方で、卵胞の発育を助けながらホルモンの流れをなめらかに保つといわれています。
また、血行不良が関係しているタイプには、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)を併用することもあるでしょう。この処方は、月経痛や塊状の経血が気になる方に向いているとされています。周期が整えば、排卵日がつかみやすくなり、不妊治療のスケジュールも立てやすくなります。
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ストレスや不眠で自律神経が乱れやすい
妊活中は、治療の結果を急ぐ気持ちや不安から、交感神経が高ぶりやすくなるといわれています。緊張状態が続くと、イライラや不眠といった症状が現れ、血流やホルモン分泌にも影響が出る可能性があります。
加味逍遙散(カミショウヨウサン)は、柴胡(サイコ)や芍薬(シャクヤク)を含む処方で、気の巡りを整え、情緒のゆらぎをやさしく鎮める働きがあるとされています。
心身が落ち着いてくると血管の緊張がゆるみ、基礎体温のリズムも整いやすくなるでしょう。ストレスや睡眠の質が気になる方によく用いられています。
【漢方別】妊活中に使っていい・わるい漢方一覧
妊活中は「何となく体によさそう」という理由だけで漢方を選ぶのは注意が必要です。子宮収縮を促す成分を含んでいたり、逆に必要な血を補えなかったりすることがあるためです。
下表は、婦人科で処方例が多い五つの漢方を「使っていい」「注意」「避ける」の3分類でまとめたものです。自分の体質や症状がどれに当てはまるかを見極めたうえで、次項から解説する詳細を参考にしてください。
| 漢方名 | 妊活中の使用可否 | 主な判断理由 |
|---|---|---|
| 当帰芍薬散 | 使っていい(ふくよかな方のみ) | 補血・利水により、 卵胞発育と内膜形成を支える |
| 温経湯 | 使っていい | 冷えと血流不足を改善し、 内膜環境を整える |
| 桂枝茯苓丸 | 注意 | 瘀血による血行不良を改善するが、 排卵後は使用に注意。妊娠期は流早産の懸念あり |
| 防風通聖散 | 避ける | 麻黄・大黄による子宮収縮の可能性があり妊活期は不向き |
| 桃核承気湯 | 避ける | 活血・瀉下作用が強く、 妊活・妊娠期は流早産の懸念あり |
当帰芍薬散
当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)は、鉄分不足やむくみが気になる方に処方される代表的な漢方で、血を補い、水分バランスを整える働きがあります。
当帰や芍薬を中心とした六つの生薬が、血を養いながら水分代謝を調え、卵胞の発育を助けるといわれています。月経周期が乱れやすい方や、基礎体温のグラフがガタつきやすい「虚弱タイプ」に適しており、安定期以降はすべての方に妊娠を安定させる安胎薬として使われることもあります。
長年にわたる使用実績があり、安全性の面でも信頼されている処方の1つです。周期が整うと排卵日が把握しやすくなり、タイミング法や人工授精の成功率向上も期待できます。

痩せ型の方は使用を控えてください。瘀血が悪化します。
温経湯
温経湯(ウンケイトウ)は、冷え性・低体温・月経痛が重なりがちな「寒冷瘀血タイプ(体の冷えと血流の滞りがある状態)」に向く処方です。
当帰(トウキ)・川芎(センキュウ)・桂皮(ケイヒ)など、体を温める生薬が骨盤内の血流を促し、痩せた子宮内膜をふっくらと保つ働きをします。冷えがやわらぐことで基礎体温の高温期が安定し、黄体ホルモンの分泌も整いやすくなるため、着床に適した環境づくりが期待できます。
妊活中だけでなく、妊娠初期の冷え対策やつわりのケアとして使われることもあります。
桂枝茯苓丸
桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)は、月経痛が強く、経血にレバー状の塊が見られる「瘀血体質」の方に向く漢方です。
桂枝(ケイシ)・茯苓(ブクリョウ)・牡丹皮(ボタンピ)・桃仁(トウニン)など、血の滞りを流す生薬を含み、骨盤内の炎症や癒着による不妊の改善を目的として処方されることがあります。
ただし、活血作用が強いため、排卵後や妊娠中に継続して服用すると出血のリスクを高める可能性があります。服用時期については、排卵前のみに限定するなど、必ず医師の指示を確認しましょう。
防風通聖散
防風通聖散(ボウフウツウショウサン)は、皮下脂肪が多く便秘しやすい体質の方に処方される、いわゆる「やせ薬」として知られています。
ただし、麻黄(マオウ)や大黄(ダイオウ)を含むため、妊活中には注意が必要です。これらの成分には子宮収縮を促したり、骨盤内のうっ血を引き起こしたりする作用があるとされ、妊娠初期のリスク要因になる可能性が否定できません。
市販品をダイエットのために自己判断で服用すると、排卵後や着床期に悪影響を及ぼすおそれがあります。体重管理は基本的に食事や運動で行い、防風通聖散の使用は医師の厳重な管理下でのみ検討しましょう。
桃核承気湯
桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)は、血流を促す作用と、お通じを整える作用を併せ持つ漢方です。
大黄(ダイオウ)・桃仁(トウニン)・無水ボウショウなど、子宮の収縮を促す可能性のある成分が含まれているため、妊活中や妊娠中の服用は原則として避けるべきとされています。月経困難症や便秘の改善にも使われることがありますが、まずはより安全な処方を優先するのが一般的でしょう。
また、市販の便秘薬に配合されているケースもあるため、購入時には成分表示をしっかり確認することが大切です。
出典:ツムラ桃核承気湯エキス顆粒(医療用)|今日の臨床サポート
妊活中の漢方は「いつ」「どうやって」飲めばいい?
漢方は、即効性よりも毎日の積み重ねが大切とされています。
基本的には1日3回、食前または食間に白湯で服用するのがいいといわれており、吸収効率を高める工夫としても知られています。
妊活中は、月経周期に合わせて処方を使い分けるのが効果的でしょう。
- 低温期には当帰芍薬散で血と水を補う(痩せ型の方のみ)
- 排卵前は桂枝茯苓丸で血行を促す
- 高温期は加味逍遙散でストレスを整える
粉末タイプは袋を軽く振って均一にし、ティースプーンで口に含んでから白湯で流すと飲みやすくなります。
丸薬の場合は、噛まずにそのまま飲み込むようにしてください。
持病の薬を服用中の方や、人工授精・体外受精のスケジュールが近い場合は、服用のタイミングを必ず専門医に確認してから始めることが重要です。
妊活中、漢方とサプリ・薬の飲み合わせは大丈夫?
妊活中は、葉酸や鉄などのサプリメントに加え、排卵誘発剤やホルモン剤といった医薬品を併用する機会も増えます。そのため、漢方との飲み合わせには注意が必要です。
例えば、防風通聖散(ボウフウツウショウサン)は、大黄や麻黄を含むため、下剤系のサプリやカフェイン量の多いサプリと併用すると、下痢や動悸を引き起こすおそれがあります。
また、甘草(カンゾウ)を多く含む処方(例:芍薬甘草湯)を、利尿剤やステロイドと一緒に服用すると、低カリウム血症などの副作用が報告されています。
なお、葉酸や鉄に関しては、現時点で明確な吸収阻害は報告されていません。ただし、サプリも薬の一種として捉え、現在服用しているものはすべて、妊活を担当する医師や薬剤師に共有することが大切です。漢方の名前、服用量、タイミングなどをメモにまとめて伝えると、相互作用の有無を判断しやすくなります。
目安としては、漢方とほかの薬・サプリは1時間以上間隔を空けて服用すると吸収の干渉が起きにくいとされています。自己判断が難しい場合は、薬剤師に相談しましょう。
出典:
ツムラ桃核承気湯エキス顆粒(医療用)|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
重篤副作用疾患別対応マニュアル 低カリウム血症|厚生労働省
【体験談】漢方で妊娠できた人の声
妊活に漢方を取り入れて体調を整え、妊娠につながったという声が、SNSでも多く見られます。
冷えやホルモンバランスの乱れなど、体質の悩みに寄り添った処方を続けることで、妊娠しやすい状態になったと感じている方もいるようです。
ここでは、実際の体験談をもとに、漢方がどのように働いたのかをみていきましょう。
漢方薬局に飛び込んで2カ月で妊娠
漢方薬局ってちょっと入りにくいけど、自然には妊娠できないと産婦人科で言われた私が「子宝相談って書いてあるから……!」と藁にもすがる気持ちですがったところ2ヶ月ぐらいで子供はできたし病院に行くほどでもない症状相談するとケロリと治ったりするので漢方はいいぞ ただし相談が大事
— みるく (@flavor_of_milk) May 22, 2021
自然妊娠は難しいと医師に言われた中、体質や不調に寄り添った丁寧な対応を受け、わずか2カ月で妊娠に至ったそうです。
また、病院に行くほどではない小さな不調も相談によって改善が見られたとのことで、相談の手厚さが大きな支えになったことがうかがえます。
当帰芍薬散で冷え・体温が安定、妊娠へ

20代で2度の流産を経験した方が、体の冷えや膣内の酸性への偏りを専門医に指摘され、当帰芍薬散を4年間継続して服用した結果、自然妊娠・出産に至り、体質の変化としては、手足の冷えが解消され、35℃台だった体温も現在では36.5℃以上で安定しているそうです。
漢方を継続することで体調と妊娠力の両方が整った一例といえます。
漢方と睡眠習慣を整えて自然妊娠

卵の数を示す指標であるAMH(アンチミューラリアンホルモン)が低く、卵の数が少ないと診断された34歳の女性が、半年間「23時前の就寝」と「毎日の漢方服用」を徹底した結果、卵の質が向上し、自然妊娠に至ったという体験談が投稿されています。
少ない卵でも、生活習慣と漢方を併用することで質を高め、妊娠につながったという前向きなエピソードです。
妊活漢方のことなら北陸富山の「漢方薬房こうのとり」にご相談ください◎
妊活中に漢方を取り入れることは、体質改善や妊娠力の底上げに役立つ選択肢の1つです。冷え・ホルモンバランス・自律神経の乱れなど、妊娠を妨げる要因に多角的に働きかけられる点が漢方の強みといえるでしょう。
ただし、処方によっては妊活中に避けたい生薬を含むものもあり、専門家への相談は不可欠です。
北陸・富山の「漢方薬房こうのとり」では、かつてイスクラ漢方の会員店として月経周期に合わせた服用法を行っていました。しかし、不要な期間の服用や体質改善の遅れが見られること、費用や期間の負担が大きくなることから、2017年以降はこの方法を廃止しています。
現在は、現代中国の最先端理論に基づく漢方を用い、生理痛や排卵痛の原因となる瘀血(おけつ)※血流の滞りを根本から整えるサポートを行っています。継続的な服用により、痛みそのものが起こらなくなる方も多く、服用を終えた後も再発しないケースが見られます。
漢方薬房こうのとりでは、漢方と西洋医学の両面から丁寧に説明を行い、妊娠しやすい体づくりを支えています。LINEでの相談も可能ですので、遠方の方もお気軽にご相談くださいね。










