不妊治療には、タイミング法から人工授精、体外受精、そして顕微授精といった段階的な治療法があり、状況に応じてステップアップが検討されます。しかし、それに伴い治療費の負担も増えていくため、事前に費用の目安を知っておくことが重要です。
この記事では、不妊治療の各ステップにかかる費用について詳しく解説します。また、健康保険の適用範囲や助成制度を活用することで、費用負担を軽減する方法についても紹介します。
治療の選択に迷っている方や、経済的な準備を進めたい方は、ぜひ参考にしてください。
不妊治療のステップアップとは
不妊治療には、段階的に治療法を進めていく「ステップアップ」という考え方があります。まずは自然妊娠の可能性を探る方法から始め、必要に応じてより高度な治療へと進んでいきます。
一般的な不妊治療のステップは、以下のように分類されます。
- タイミング法
- 人工授精(AIH)
- 体外受精・胚移植(IVF-ET)
- 顕微授精(ICSI)・胚移植
治療のステップアップは、年齢や不妊の原因、治療経過を考慮して決定されます。一般的に、タイミング法を数カ月試した後に人工授精へ進み、それでも妊娠に至らなければ体外受精に移行する流れが多いです。
不妊治療のステップ「タイミング法」にかかる費用
タイミング法は、不妊治療の最初のステップとして行われる方法です。自然妊娠の可能性を高めるために、排卵日を正確に予測し、妊娠しやすいタイミングで性交を行います。
タイミング法の具体的な治療内容
タイミング法では、以下のような検査や治療が行われます。
- 基礎体温測定(排卵時期を把握するために毎朝体温を測定)
- ホルモン検査(血液検査で排卵やホルモンの状態を確認)
- 超音波検査(卵胞の発育状況をチェックし、排卵のタイミングを予測)
- 排卵誘発剤の使用
- 内服薬(クロミフェン、レトロゾールなど)
- 注射薬(hCG注射、FSH注射など)
タイミング法にかかる費用
タイミング法にかかる費用は、検査や排卵誘発剤の使用有無によって異なります。厚労省によって公開されている野村総研の調査では、以下のような費用感になっています。
1周期あたりのタイミング指導費用
5,000円未満 | 32.4% |
---|---|
5,000円以上10,000円未満 | 31.3% |
10,000円以上15,000円未満 | 14.4% |
15,000円以上 | 21.9% |
タイミング指導の平均費用は、8,015円だそうです。
出典:令和2年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業『不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書』|厚生労働省
費用は施設や治療内容によって異なるため、詳しくは医療機関での確認が必要です。
タイミング法は比較的低コストで行える不妊治療ですが、数カ月試しても妊娠に至らない場合は、次のステップである人工授精(AIH)へ進むことが推奨されます。
不妊治療「人工授精(AIH)」へのステップアップでかかる費用
人工授精(AIH)は、タイミング法で妊娠に至らなかった場合に行われる不妊治療のステップの1つです。排卵のタイミングに合わせて、精子を子宮内に直接注入し、受精の可能性を高めます。
人工授精(AIH)の具体的な治療内容
人工授精では、以下のような手順で治療が行われます。
- 排卵誘発(必要に応じて)
- 内服薬(クロミフェン、レトロゾールなど)
- 注射薬(hCG注射、FSH注射など)
- 精液の処理
- 精液を採取し、質の良い精子を選別(スイムアップ法、密度勾配法など)
- 精子の注入
- カテーテルを用いて精子を子宮内に注入
人工授精にかかる費用
人工授精の1周期あたりの費用は、施設や治療内容によって異なります。
人工授精の1周期あたりの費用分布
1万円以上2万円未満 | 25.7% |
---|---|
2万円以上3万円未満 | 24.4% |
5万円以上 | 21.5% |
人工授精の平均費用は、30,166円だそうです。
あくまで平均費用による概算ですが、人工授精(AIH)へのステップアップによる費用差分は以下のとおりです。
30,166円 - 8,015円 = 22,151円
出典:令和2年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業『不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書』|厚生労働省
人工授精は比較的負担の少ない治療ですが、成功率は1回あたり5~10%程度とされており、複数回の治療が必要になることもあります。一定回数試しても妊娠に至らない場合は、体外受精(IVF)へのステップアップを検討することになります。
不妊治療「体外受精・胚移植(IVF-ET)」へのステップアップでかかる費用
体外受精(IVF-ET)は、人工授精で妊娠に至らなかった場合に行われる不妊治療のステップの1つです。卵子と精子を体外で受精させ、受精卵を子宮に移植することで妊娠を目指します。
体外受精・胚移植(IVF-ET)の具体的な治療内容
体外受精では、以下のような手順で治療が行われます。
- 排卵誘発(必要に応じて)
- 内服薬(クロミフェン、レトロゾールなど)
- 注射薬(hCG注射、FSH注射など)
- 採卵
- 排卵前に卵子を採取
- 体外受精・培養
- 体外で精子と卵子を受精させ、培養
- 胚移植
- 受精卵(胚)を子宮に戻す
体外受精にかかる費用
体外受精の1周期あたりの費用は、施設や治療内容によって異なります。
体外受精の1周期あたりの費用分布
30万円以上40万円未満 | 15.9% |
---|---|
20万円以上30万円未満 | 15.3% |
40万円以上50万円未満 | 12.9% |
50万円以上60万円未満 | 12.9% |
100万円以上 | 9.3% |
体外受精の平均費用は、501,284円だそうです。
人工授精(AIH)から体外受精へのステップアップによる費用差分は以下のとおりです。
501,284円 - 30,166円 = 471,118円
つまり、人工授精(AIH)から体外受精(IVF-ET)へステップアップすると、1周期あたり約47万円の追加費用が発生することになります。

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出典:令和2年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業『不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書』|厚生労働省
不妊治療「顕微授精(ICSI)・胚移植」へのステップアップでかかる費用
顕微授精(ICSI)は、体外受精(IVF)で受精が難しい場合に行われる不妊治療のステップの1つです。精子を直接卵子に注入することで、受精の可能性を高めます。
顕微授精(ICSI)・胚移植の具体的な治療内容
顕微授精では、以下のような手順で治療が行われます。
- 排卵誘発(必要に応じて)
- 内服薬(クロミフェン、レトロゾールなど)
- 注射薬(hCG注射、FSH注射など)
- 採卵
- 排卵前に卵子を採取
- 顕微授精(ICSI)
- 顕微鏡を用いて、精子を卵子に直接注入
- 胚培養
- 受精した胚を数日間培養
- 胚移植
- 受精卵(胚)を子宮に戻す
顕微授精にかかる費用
顕微授精の1周期あたりの費用は、施設や治療内容によって異なります。
顕微授精の1周期あたりの費用分布
50万円以上60万円未満 | 18.0% |
---|---|
30万円以上40万円未満 | 13.8% |
20万円以上30万円未満 | 12.9% |
50万円以上の割合 | 47.4% |
顕微授精について厚労省の資料に平均費用の記載はありませんが、体外受精(IVF-ET)と顕微授精(ICSI)の費用差は大きくありませんが、顕微授精のほうが若干高額になる傾向があります。これは、精子を直接卵子に注入するための技術料が加わるためです。
顕微授精は、重度の男性不妊や受精障害がある場合に選択される治療であり、体外受精で受精がうまくいかなかった場合にステップアップが推奨されます。
不妊治療のステップアップに伴い考えたい、費用を抑える方法
不妊治療のステップアップに伴う費用負担を軽減するためには、以下の方法があります。
健康保険の適用
2022年4月から、不妊治療の一部が健康保険の適用対象となりました。これにより、体外受精や顕微授精などの高度生殖医療も保険適用となり、自己負担額が3割に軽減されます。
ただし、年齢や治療回数に制限があります。
43歳未満という年齢制限
治療開始時点で女性の年齢が43歳未満であることが条件となります。したがって、治療開始時に女性が43歳以上の場合、これらの治療は保険適用外となります。

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治療開始時の女性の年齢による回数制限
初めての治療開始時の女性の年齢が40歳未満の場合 | 1子ごとに通算6回まで保険適用されます。 |
---|---|
初めての治療開始時の女性の年齢が40歳以上43歳未満の場合 | 1子ごとに通算3回まで保険適用されます。 |
出典:不妊治療に関する支援について|厚生労働省
高度先進医療保険でのカバー
高度先進医療特約のある医療保険について、多くの方が誤解をしています。体外受精は現在保険適用になったため、高度先進医療の対象外だと思い込んでいる方が多く、保険金の申請を検討すらしていません。申請件数が少ないため、保険の担当者でさえ「対象外」と思い込んでいることがあります。
保険の担当者に勧められるまま医療保険に加入している方の9割は、「将来がんになった時のために」という説明で加入しています。保険料の差額が月2〜3千円程度ということもあり、高度先進医療特約を付けることが多いようです。
実は、この特約での保険金請求は遡って行うことができます。ご自身の加入している保険の内容を確認してみることをおすすめします。
場合によっては、採卵、移植それぞれ1回あたりで3〜5万円返ってくることもあります。
助成制度の活用
自治体によっては、不妊治療に対する助成制度を設けている場合があります。
例えば、東京都では特定不妊治療費(先進医療)助成事業を実施しており、一定の条件を満たす夫婦に対して、治療費の一部を助成しています。
また、富山県でも特定不妊治療費助成事業を行っており、保険適用外となる治療に対して助成を行っています。各自治体によって助成内容や条件が異なるため、お住まいの自治体の情報を確認してください。

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出典:
東京都特定不妊治療費(先進医療)助成事業の概要|東京都福祉局
富山県特定不妊治療費助成事業について|富山県
これらの制度を適切に活用することで、不妊治療にかかる費用負担を軽減することが可能です。最新の情報や詳細については、各自治体の公式サイトや担当窓口にお問い合わせください。
不妊治療には多くの落とし穴が……。ステップアップの前に一度ご相談ください
「漢方薬房こうのとり」では、体外受精を経験されている方、または検討されている方に対し、まずARTのステップアップについて説明しています。
日本産科婦人科学会の2024年8月30日の最新発表によると、日本の体外受精・顕微授精(ART)の生産率(出産までの成功率)は13.8%と、世界最低の数字となっています。これは、2番目に低いアメリカの28.7%と比べても半分以下です。一方で、日本のART実施回数は世界一多いという特徴があります。
このような状況について、当院では以下の疑問を投げかけています。
- なぜ日本の実施回数が多いのか
- 他国で必要とされる条件を日本ではスルーしているのではないか
- それが低い成功率の原因なのではないか
「漢方薬房こうのとり」のお客様の中には、ドイツ、アメリカ、オランダ、ベルギーでの体外受精成功例があります。これらのケースでは、漢方医学的に重視している4つのポイントのうち、特に「卵子の質」が重要な条件でした。
ステップアップを考える前に、この「卵子の質」を含む4つの条件について検討する必要があります。「漢方薬房こうのとり」では、子宝漢方相談の際に、これらの漢方医学的な妊娠条件について詳しく説明しています。
医療機関では、ガイドラインに沿って治療が進められ、原則的にステップアップ方式を採用しています。ただし、年齢によってはステップダウンする場合もあります。
しかし、このように成功率が低い現状を考えると、ステップアップの前に検討すべき選択肢があるのではないでしょうか。漢方薬房こうのとりでは、実際に妊娠・出産を実現された方々が服用していた漢方薬があり、それは先ほどお伝えした4つの条件に基づいて処方しています。
一人ひとりの状況に応じたサポートを行っていますので、まずはお気軽にご相談くださいね。
